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第一章 過去と現在が交差する52

last update Last Updated: 2025-01-15 19:59:49

   *

大くんに会えなくなって一週間が過ぎた頃、実家近くの公園で空を見ていた。

定期検診に行ってきた帰りで歩くのは疲れたので少し休むことにしたのだ。

すると人が近づいてきた。

誰だろうと顔をよく見ると大澤さんだった。まさかこんなところに現れると思わなかったので驚いて固まってしまう。

「こんにちは」

「……っ」

「まだ、お腹にいるの?」

「……」

私が座っているベンチの隣に腰を降ろした大澤さんは、私に日傘を差してくれる。

「愛してるのね。紫藤を愛してくれて本当に、ありがとう」

柔らかい声が耳に届いて驚いた私は、思わず大澤さんを見てしまった。

「この前は失礼な言い方してごめんなさいね。紫藤は、本当に才能がある男なの。きっと十年後には国民的芸能人になっていると思うわ。歌だけじゃなくて、演技も、番組の司会もできるマルチタレントになっていると思う」

柔らかな風が吹く。

だけど、それが切なくて泣きそうになった。

「今は小さな種かもしれない。だけど、間違いなく大きく花が咲くわ。あなたなら、近くで見ていたからわかるでしょう? 彼はたくさんの人に愛される人間。そしてたくさんのファンを幸せにすることができる力を持っている人。この世界にはね結婚もタイミングがあるのよ。祝福される時と、憎まれる時期とね……」

コクリとうなずいた。痛いほどわかる。

大くんは、スターになるべくして生まれた人なのだ。

どう考えたって今は結婚するタイミングではない。

「その彼の可能性を、あなたが奪っていいの? 大事な芽を潰してもいいの? 愛しているなら、身を引くって選択もあるのよ。静かに見守る愛もあるの。女としてそういう愛し方もあるのよ」

涙がポロッと落ちた。ハンカチをさっと出してくれる。

「紫藤も辛いはずよ。だからね、あなたに憎まれ役を演じてもらいたいの」

「どうやって、ですか?」

「手紙を書いてもらえないかな。中身は嘘だらけになるかもしれないけれど」

「嘘?」

そういうことだろうと思って私は首を傾げた。

「紫藤との結婚よりも、未来の安定を選びましたって」

「……」

「辛い思いをさせて本当に本当に、申し訳ないわ」

大澤社長はこの前実家に訪れた時とは印象が違って、少し理解のある人に見える気がした。

「……わかりました」

手紙を書いて、大澤さんへ郵送することを約束した。

私は……大くんの幸せと、COLORの夢、た
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    美羽side結婚パーティーを無事に終えることができ、私は心から安心していた。 私と大くんが夫婦になったということをたくさんの人が祝ってくれたのが、嬉しくて ありがたくてたまらなかった。 しかし私が大くんと結婚したことで、傷ついてしまったファンがいるのも事実だ。 アイドルとしては、芸能生活を続けていくのはかなり厳しいだろう。 覚悟はしていたのに本当に私がそばにいていいのかと悩んでしまう時もある。 そんな時は大きくなってきたお腹を撫でて、私と大くんが選んだ道は間違っていないと思うようにしていた。自分で自分を肯定しなければ気持ちがおかしくなってしまいそうになる。 あまり落ち込まないようにしよう。 大くんは、仕事が立て込んでいて帰ってくるのが遅いみたい。 食事は、軽めのものを用意しておいた。 入浴も終えてソファーで休んでいたが時計は二十三時。 いつも帰りが遅いので平気。 私と大くんは再会するまでの間、会えていない期間があった。 これに比べると今は必ず帰ってくるので、幸せな状況だと感で胸がいっぱいだ。 今日は産婦人科に行ってきて赤ちゃんの性別がはっきりわかったので、伝えようと思っている。手作りのケーキを作ってフルーツの中身で伝えるというささやかなイベントをしようと思った。でも仕事で疲れているところにそんなことをしたら迷惑かな。 でも大事なことなので特別な時間にしたい。

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    「そんな簡単な問題じゃないと思う。もっと冷静になって考えなさい」強い口調で言われたので思わず大澤社長を睨んでしまう。すると大澤社長は呆れたように大きなため息をついた。「あなたの気の強さはわかるけど、落ち着いて考えないといけないのよ。大人なんだからね」「ああ、わかってる」「芸能人だから考えがずれているって思われたら、困るでしょう」本当に困った子というような感じでアルコールを流し込んでいる。社長にとっては俺たちはずっと子供のような存在なのかもしれない。大事に思ってくれているからこそ厳しい言葉をかけてくれているのだろう。「……メンバーで話し合いをしたいと思う。その上でどうするか決めていきたい」大澤社長は俺の真剣な言葉を聞いてじっと瞳を見つめてくる。「わかったわ。メンバーで話し合いをするまでに自分がこれからどうしていきたいか、自分に何ができるのかを考えてきなさい」「……ありがとうございます」俺はペコッと頭を下げた。「解散するにしても、ファンの皆さんが納得する形にしなければいけないのよ。ファンのおかげであなたたちはご飯を食べてこられたのだから。感謝を忘れてはいけないの」大澤社長の言葉が身にしみていた。彼女の言う通りだ。ファンがいたからこそ俺たちは成長しこうして食べていくことができた。音楽を聞いてくれている人たちに元気を届けたいと思いながら過ごしていたけれど、逆に俺たちが勇気や希望をもらえたりしてありがたい存在だった。そのファンたちを怒らせてしまう結果になるかもしれない。それでも俺は自分の人生を愛する人と過ごしていきたいと考えた。俺達COLORは、変わる時なのかもしれない……。

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